銀輪の風:世界の、シクロ・リポート:BS-TBS毎週月曜23:30〜24:00放送

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とんびがくるりと銀の輪を描いた…気がした

shun

今から十六年前、神奈川県のある都市が世界遺産の暫定リストに挙げらた。
残念ながら当時は登録される迄には至らなかったが、その時はそれなりに
話題になり今でもその時の事を少なからずぼんやりと覚えている。世界遺産は
認定される事によりその保全が妨げられてしまう側面も抱えており様々な問題
も孕んでいる、そのため登録自体を良しとせず認定に反対を唱える者も生み出し
てしまうなど事態は複雑化もしている。今年は遂にその都市が国に世界遺産登録
の推薦の要請を行うらしい。各自治体や市町村のそういった文化的な活動に国が
一体どこまで関与する姿勢を見せるつもりなのかは甚だ疑問だが、これからも
神奈川に住み暮らしている者としては今後の動向を見届けたいと思う。

そのある都市とは武家の古都、鎌倉。市内のいたる所では今でも歴史的遺産が
数多く残存している。鎌倉に暮らす人達は撮影そのものになれているのか、
とにかく人懐っこい住人が多く地元の人しか知らないような話も色々と聞く事が
出来た。ロケ先で出会う人々の柔らかな物腰と仕草や、どこかしらたおやかで
落ち着いた雰囲気を醸し出していたのもとても心に残った。そんな鎌倉は平日とは
いえやはり観光地。鎌倉ならではの道路アクセスの悪さと交通量の多さのせいで
撮影が滞る場面も屡、人が集まる場所でのロケは本当に骨を折る思いだった。

とはいうものの、表通りから外れて一本奥の路地に入れば成る程、古都を感じ
させる静かで穏やかな風景が訪れる者を出迎える。何の変哲も無いただの道路
が長い歴史へと誘う深淵な入り口に思わせてしまうのも鎌倉の持つ地力の成せる
業だろうか。歴史的な名所を多数有する鎌倉の中でも今回訪れた中で特に印象
深かったのが比企谷妙本寺だった。急な坂道と階段を登り閑静な境内に入るとそこ
にある草木には丁寧に手入れが行き届いており、これこそ和の様式美そのもの。
まるで一枚の絵葉書の中に放り出されてしまったような錯覚に陥りしばしぼんやり、
美しい景観には人から言葉を奪ってしまう力があるようだ。ほっと和むのも束の間、
かつてはこれがスタンダードであったであろう日本の原風景に後ろ髪を引かれ
つつも一行は先を目指します。

若宮大路を抜け海岸線に平行する国道に近付くにつれ潮風と陽光を乗せ眩く
波打つ開放的な相模湾が一望できます、自分もほんの数百メートルでしたが
撮影用の自転車で海までの道を走る事が出来ました。ペダルを漕ぎ出すと
ゆっくり上がっていくスピードに比例して感じる風も次第に強くなっていく、やはり
自分で漕いだ分だけ距離を移動させ徐々に疾走していく感覚が味わえるのは
自転車という乗り物だけであろう。今回は自転車で散策という視点から今までと
はまた違った新しい鎌倉の発見ができた。そして、自転車自体の持つ魅力の素晴
らしさを改めて再認識ができたのは私にとって予想以上の収穫となった。ふと、
見上げれば遥か空の彼方では一羽の鳶がくるりと輪を描きながら、まるでこの世の
生を享受するかの如く甲高い鳴声を辺りに響かせていた。その声に思わず、毎日
を都会の喧騒の中で働く私も些か安穏とした気分になったのだった。