銀輪の風:世界の、シクロ・リポート:BS-TBS毎週月曜23:30〜24:00放送

自転車番組の最新情報をRSSで配信しています

世界各国の自転車競技のレースシーン、そこに躍動するアスリートの熱い思いを伝えます

取材こぼれ話自転車番組制作中の苦労談、裏話の類を不定期に更新します

アートなフレーム

スタッフ

突然ですが、皆さんマルセル・デュシャンという芸術家をご存知でしょうか? 20世紀で最も偉大な芸術家の一人としてあげられるデュシャンは、特に「レディ・メイド」と呼ばれる既製品にほとんど手を加えずに芸術品とする作品を生み出したことで有名です。「泉」と題された、ただの便器を美術の教科書などで見たことがある方も多いと思います。
そんなデュシャンの最初のレディ・メイド作品が、1913年の「自転車の車輪」です。台所の椅子にフォークについた自転車の車輪を倒立させただけの作品。デュシャンはこの車輪をクルクル回して、それが芸術だと思ったらしいのです。
実は先日、僕もこの時のデュシャンと全く同じ感覚(かどうかはわかりませんが…)を体験しました。それはフレームビルダー牧野政彦さんの取材で、牧野さんの工房におじゃました時のことでした。

フレームビルダー牧野政彦さん、トップで活躍する競輪選手達も数多く使用している自転車のブランド「MAKINO」の社長さんです。
ビルダーということで、職人気質で怖い感じの方を想像していた僕でしたが、実際に牧野さんにお会いすると、とても柔和で穏やかな方だったので一安心。取材にも協力的で色々な興味深いお話しをしてくれました。工房では牧野さんのほかに3人の社員さんがいて、一日中黙々とフレームを作っています。ただの鉄パイプが様々な行程を経て自転車のフレームになっていく様は見ていて非常に楽しかったです。

そうして出来上がった自転車ですが、これが非常に美しい。「美しい」とか言うと気取ったように聞こえますでしょうが、先輩スタッフも思わず「美しいね…」とこぼしてしまうほど、とにかく美しかったのです。出来上がった自転車もさることながら、僕が好きだったのは塗装される前の、まだ職人の技の跡が見てとれるような状態の、鉄の色をしたフレーム。これが鉄の作業台の上に、鉄の器具で5点をガッチリと止められていたのですが、その姿はそのまま現代アートとして美術館に出展できるような凄味がありました。まさにレディ・メイド。車輪とフレームの違いこそあれ、デュシャンと僕がシンクロした瞬間でした(笑) とは言ってもフレームは元々職人さんが気持ちを込めてつくった作品ですから、レディ・メイドとはまた少し意味が違いますね。
しかしフレームだけで素敵なのだから、昨今の自転車ブーム、若者たちがファッションとしてこぞって自転車に乗るのも頷けます。自分もいつか牧野さんの自転車に乗れるように頑張って働きます。

この記事のトラックバックURL:
http://www.ginrin.tv/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/176

コメント投稿フォーム